2015年05月04日

津波に浸かった写真を修復する


 東日本大震災で発生した津波により多くの方が亡くなりました。
 また、生き延びた方も、家が流されたりして、家財だけではなく、思い出深い写真アルバムも失われてしまいました。

 そんな中、被災した家屋の中から、津波に浸った写真アルバムを見つけ出し、洗い、乾燥させて、写真をデジタル化するという活動をしている方の番組を見たことがあります。

 うちの実家も被災し、写真アルバムをなんとか助け出したのですが、それも4年前の話。
 重い腰を上げ、このアルバムの中の写真をデジタル化することにしました。

 何かの役に立つかも知れないので、この修復の過程をメモしておきます。
 「デジタル化って、スキャンして画像として保存するだけでしょ、簡単じゃん」という声が聞こえてきそうですが、簡単ならわざわざ記事をアップしません。


想像以上の難しい作業
 修復の話をする前に、津波のことを詳しく知っておく必要があります。
 今回修復する写真は、水に浸かったのではなく、「津波に浸かった」ものです。

 大多数の方は、津波の被害状況はテレビでしか知らないと思います。確かに、映像はあたかもその場にいるような臨場感がありますが、重要な要素が不足しています。

 それは、「におい」です。
 津波がひいた後には、海底から巻きあげられたペドロが残りました。このヘドロがとてつもなく嫌な臭いを発します。ヘドロ臭と海草のにおいを混ぜたような、吐き気をもよおす悪臭です。

 震災後、アルバムがいつころヘドロの中から引き上げられたのかは知りませんが、たぶん、震災から数ヶ月は経っていたのではないでしょうか。その間、アルバムは海水の下のヘドロの中に埋まっていました。

 このアルバムを見つけ出し、洗浄し、さらに、乾燥させるのは大変な作業だったと思います。すごい悪臭の中、作業をして下さった方々の善意をひしひしと感じます。

 さて、ここからが本題です。
 乾燥させたアルバムの中の写真はどうなっているか。実は大変なことになっています。

修復を阻むカビと写真の接着
 大体想像できると思いますが、一度濡れた写真を乾燥させると、アルバムの中で写真がくっついてしまいます。さらに、ヘドロに浸かっていたことから、写真には大量のカビが発生していました。臭いは4年の間になくなっています。 
 
 修復を妨げるのは、主に「カビ」と「写真のくっつき」です。
 特に、「カビ」はぞっとするほど繁茂していて、触るのも見るのも嫌になるくらいです。カビは印画紙の中にまで根を張っているので、擦ってもとれません。そもそも、写真を擦ってカビを取るということ自体不可能です。印画面が剥がれてしまいます。

 良い修復方法は見つからないのですが、実際の作業の状況を以下に書いていきます。
 写真の中には、印画面が溶け出し、修復不能というものもたくさんあります。


古い写真の救出
 写真の中でも「この写真だけはなんとしても復活させたい」と思うものがあります。それは、古い写真です。昭和40年代以降は、カメラが普及してきた時代なので、ネガから焼き増しして、同じ写真を誰かが持っている可能性があります。しかし、昭和初期の写真は、同じものを見つけるのは絶望的と言って良いでしょう。つまり、写真の価値が全く異なるように思います。

 今回の古い写真には昭和10年代に撮影されたものが多数ありました。
 この古い写真は、古いアルバムに貼り付けられていました。すなわち、最近の台紙とフィルムの間に写真を入れるというファイル方式ではなく、写真をアルバムに直接のり付けしていく方式のものです。

 実は、このタイプのアルバムの修復にとても時間がかかりました。栄養豊富なヘドロに長時間浸かっていたためにカビの繁殖がすさまじい。さらに、写真と写真の間に何も挟まっていないため、濡れて乾燥させたら写真同士がくっついてしまう。最悪です。

 写真の裏にはメモ書きがあるので、台紙から剥がして、スキャンして、画像修復後のファイル名にこのメモ書きを書き込みます。古い写真だからこそ、その時代、人物を知っている人がとても限られてしまう。歴史の一コマを覗いている感じがしてきます。

 アルバムはとても不潔で、ほこりっぽい。たぶん、目に見えない無数のカビが辺り一面に飛び交っていると思います。頻繁に石けんで手を洗うようにしないと、手がかゆくなる。早く作業を終わらせる必要があります。

 一枚の写真を修復するのに1時間以上かかります。たった1枚の写真ならもっときれいに修復できるのですが、とにかく数が多い。嫌になって途中で投げ出さないように、修復作業は、まあまあ見られる出来映え、という一定程度で打ち切りです。それに、あまり手を加えると、元の写真とは別のものになってしまいます。何事もほどほどが良いようです。

 古い写真の修復作業の手順は概ね以下の通りです。

 修復前
Repair_before2.jpg


 修復後
Repair_after2.jpg



1.写真をアルバム台紙からていねいに剥がす。うまく剥がれないときは、台紙ごと切り取る。

2.2枚の写真がくっついている場合は、水に浸ける。台紙からうまく剥ぎ取ることができず台紙ごと切り取った場合も同様に水に浸ける。
 写真を見ても、誰の写真なのか、いつの写真なのか分からないので、写真の裏書きを確認することが重要です。無理に剥がさず台紙ごと切り取って水に浸けることで、きれいに剥がせます。

 水に浸ける時間は、数分でOK。それ以上浸けてもあまり変わらない。

3.水に浸けた状態で2枚のくっついた写真を慎重に剥がしていきます。水に浸けておいても、くっついた部分には水が入っていかないので乾いたまま。この状態で剥がそうとすると写真を傷つけてしまいます。このため、水の中でゆっくりと剥がします。

 重要なのは顔の部分。顔が判別できないほど劣化してしまった写真は廃棄します。顔以外はあとでPhotoshopを使って修復可能ですが、顔は難しい。修復すべき写真は数百枚もあるので、躊躇している余裕はありません。

4.剥がした写真の表面を見て、ゴミを除去していきます。これは、「爪」で行います。いろいろ試したのですが、「爪」が一番きれいにゴミを除去でき、写真を痛めません。
 
 あまり擦ると写真の表面が毛羽立ちます。見た目ではほとんど分からないのですが、スキャンしたとき、無数の毛羽立ちが現れてしまい、修復に時間がかかります。

 最終的に、Photoshopで修復するので、その作業を念頭に、ゴミ取りを入念に行います。特に顔の部分は入念に。

5.水から引き上げた写真の水分を拭き取ります。この時、ティッシュをつかってはいけません。濡れた写真の表面は粘着性があり、紙の繊維が付着してしまいます。そこで使うのが、車の洗浄などで使う「セーム革もどき」。吸水性が高く、繊維が写真表面に残るようなことはありません。

6.「セーム革もどき」で写真の水分を吸い取ったら、写真表面を少し乾燥させます。5分程度でOKです。直ぐにスキャンにかけるとうまくスキャンできません。少し乾燥させましょう。

7.乾燥後にスキャナーでスキャンします。解像度は最大を指定。画質を低下させないため、Photoshopから直接読み込みます。

 ここで、スキャンをする場合の注意点を書きます。管理人が使っているスキャナーは、Canon製のプリンターと一体型のものです。実は、スキャンするときに様々な設定をすることができます。モレアやゴミ取りも設定することができます。管理人はこの機能を知らなかったばかりに、貴重な時間を無駄にしてしまいました。お手持ちのスキャナーでどのような設定が可能なのか、作業を始める前に確認しておいたほうがよいでしょう。


8.Photoshopに読み込んだら、画像の修正です。
 修正するのは、@ゴミ取り、A欠損部分の修復、Bカビの部分の消去、です。
Mold1.jpg


 @ ゴミ取り
  写真を見るとキレイに見えても、スキャンした画像にはたくさんのゴミが見えます。スキャナーの解像度が高いせいもあるようですが、とにかく、たくさんのゴミが見つかります。これをコピースタンプを使って一つずつ消していきます。

 A 欠損部分の修正
  読み込んだ画像には、写真では見えない色飛びがあったり、くっついていた部分が欠けているものがあります。これもコピースタンプを使って修復します。また、シワが寄ったりしている部分もシワを消していきます。修復範囲が広い場合は、マスキングを使って塗っていきます。

Repair_before5.jpg

Repair_after5.jpg


 B カビの部分の修正
  これが一番やっかいな作業です。カビが映り込んだ画像は見ていて気持ちが悪い。せっかく修正するのだから、カビはきれいに消してしまいます。カビが侵食している部分はかなり広範囲になるので、Aの作業のようにマスキングして、スタンプツールを使いながら塗っていきます。

カビと欠損部分の修復(前)
カビと欠損部分の修復(後)



9.画像の保存
 写真の裏に書かれていた文章をファイル名にして保存します。今回は、「(写っている人の)人名_裏書きの文章_場面_撮影日.jpg」というルールでファイル名を付けました。


カビに降参
 写真表面にはびこるカビ。オリジナルの写真を見るとそれほど気にならなかったのに、スキャンした画像を見ると、ぞっとするくらいカビが繁茂しています。

 いろいろ試したのですが、写真からカビを取り除くのは不可能なのであきらめました。
 写真の大事な部分、例えば「人物の顔」などに一部カビが見られる場合は、Photoshopでカビを消してしまいますが、顔全体をカビが覆ってしまった場合はどうしようもありません。その写真は廃棄します。

 上でも書きましたが、今回の修復作業で一番困ったのが、このカビです。写真表面のゴミであれば、爪で落とせますが、カビは無理です。カビが繁茂している部分は、Photoshopのコピースタンプでカビを消してしまいます。しかし、それには限界が。大きな面積になると、コピースタンプでは対応できません。そんな時には、ぼかしてしまいます。カビが見えるよりぼかしてしまった方が精神衛生上よろしいかと。とにかく、カビの画像は見たくありません。


白黒写真に色を付ける
 古い写真なので、とうぜん白黒写真です。それはそれで趣があるのですが、中にはカラーにするともっと見栄えがするのではないかと思える写真もあります。煤けた、いかにも昭和初期の写真という感じだと、被写体も古びて見え、生命感を感じなくなります。そこで、カラー写真にしてみました。今回は、簡単に白黒写真をカラー写真にできる以前紹介した「Recolored」というフリーソフトを使って着色しました。

白黒写真をカラー写真に変換 gif



修復した写真に見る良き時代
 今回古い写真を修復していて気づいたことがいくつかあります。
1.被写体の人たちは誰も笑っていない!
 被写体の人物たちが皆、しかめっ面をしています。いや、おすましをしています。笑っている人などほとんど皆無。これが昭和10年代の文化なのだと思いました。「チーズ」などと笑顔で写っている人は本当にいない。写真を気軽に撮れる時代ではなかったので、みんな緊張して写っているように思います。

2.写真館のロゴ入り
 当時はカメラが高級品で、個人で持っている人はほとんどいない。写真の多くは写真館で撮影したもの。写真館のロゴが写真に深く刻み込まれています。

3.昔から、美人は得!
 うちの親戚は美人ばかりなのですが、女性の写真の数が多いのに驚き。個人でカメラを持っている人が少なかった時代に、これだけ多くの写真を誰が撮ったの? と思うほど(写真館撮影以外の)たくさんの写真があります。いつの時代も、やはり、美人は得、ということでしょうね。

4.着物が美しい
 着物というと、現代は成人式とか特別な場合しか着ないという衣装ですが、ほんの数十年前まで、日本女性の普段着でした。昭和女性の着こなしが凛々しい。さまになっています。本当にきれいです。

 それに比べ、幕末の写真を見ると、幕末の方が衣装がとても貧相に見えます。この違いは何なのでしょうか。
 今回の写真と幕末に撮られた写真を見る限り、「着物の材質」が違うようです。また、昭和の着物は「糊」がきいているように思います。さらに、下着(襦袢)も全く違うように感じました。昭和初期の着物姿の女性たちは、とてもシャキッとして写真に写っています。江戸時代のデレッとした着付けの女性たちとは着こなしが違うように思いました。

後日談
 古い写真の修復は不気味。スキャンした画像を拡大してゴミ消しの作業をしていたときのこと。
 
 「あれっ、こんなところに人がいる。」
 しかし、そんなはずはありません。そこは、地面の土の中だから。

 写っている人の靴のサイズから考えて5センチくらいの小人です。しかも、はっきりと写っている。心霊写真のようなボケたものではなく、クッキリと写っている。オリジナル写真で確認したのですが、あまりに小さくて確認できない。

 気持ち悪いので、Photoshopで消しました。ところが、そこから1メートルくらい離れたところに今度は人の顔が現れました。「なんなんだ、この写真は!」 気持ち悪いし、怖いので、その顔も消します。ところがうまく消えずに、別の顔の変化します。怖いです。怖いです。怖いです。写真ごと削除しようかと思ったのですが、せっかく良い写真なので思いとどまって作業を終えました。もう見たくない。

 このようなことは、コピースタンプを使っているとたまに起きる現象です。コピースタンプにより、相似形の部分がいくつもできるので、それが『自然界にはない別のもの』のように見える場合があります。でも、今回は、かなりびびりました。霊好きの人は、「津波で亡くなった方の霊」とか言い出すのではないかと思います。こんなヤバイ写真、たぶん、別の部分を探すともっとたくさんの不思議なものが映り込んでいるような気がします。とほほ。

 オリジナル写真は不潔なので、全て廃棄処分にしました。残っているのは画像ファイルだけです。


posted by ネコ師 at 02:28 | Comment(0) | 役立つ知識(画像編1) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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